【コラム】ダ・ヴィンチ様:「いぬやしき」アニメと映画、両作のプロデューサー対談全文

いぬやしき

TVアニメ「いぬやしき」のコラムのご紹介です。

テレビアニメ化と実写映画化が同時に進行中の一大プロジェクト『いぬやしき』ですが、
10月6日発売のダ・ヴィンチ11月号に、TVアニメプロデューサー「松尾拓」×実写映画プロデューサー「梶本圭」対談インタビューが掲載されています。

今回はダ・ヴィンチ様にご協力をいただき、WEB上で全文掲載をさせていただくこととなりました!
両プロデューサーが、映画・アニメプロジェクト発足の経緯から、多くのファンが注目しているポイントを語り合います



テレビアニメ・実写映画
バラバラに動いていた映像化企画

松尾 原作は『イブニング』で連載が始まるときから「奥浩哉先生の新作、今度はどんな話なんだろう」と期待していたんです。事前には意味ありげなひらがなのタイトル以外、全然情報がなかったので。それで連載第1回を読んでみて、「これまでに見たことない"新しい"マンガが始まったな」と感じました。
奥先生のマンガは『GANTZ』もそうでしたが、リアルタイムの現実そのままの世界で想像を絶するようなことが起きて、それに立ち向かう人びとの物語が軸になっています。『いぬやしき』もリアルな世界観に凄惨な暴力描写や目を背けたくなるような"悪"が登場しますが、それはあくまで"悪"を倒すヒーローの存在を際立たせるものなんですよね。
悪に立ち向かうヒーローの活躍によってカタルシスが爆発するところなんかは、これぞ"奥浩哉イズム"という感じですごく興奮しました。

梶本 僕はコミックスの1巻が出たときに読みました。奥浩哉先生の新作ということはもちろん知っていたのですが、表紙とタイトルからは内容が全然想像できなくて、読んでみたら第1話から衝撃の展開で一気にグッとつかまれましたね。
犬屋敷壱郎も獅子神皓も、それなりの悩みを抱えていながらも"普通"の人間だったわけじゃないですか。そんな2人が機械の身体になってしまったことによって、両極端な方向に向かって予想もつかない物語を展開させていくところは、さすが奥浩哉先生だなと感じました。
ものすごく写実的でリアルな表現がされていることもあって、「これは実写をやってみたいな」と感じましたが、すぐ「いや、やっぱり実写をやるにはハードルが高すぎるか」と思い直す、そんな第一印象でした。

松尾 テレビアニメ化と実写映画化はほぼ同時に決定したのですが、実は企画段階ではお互い映像化を進めていることを知らずにまったく別々に動いていたんですよね。

梶本 最初に講談社さんに映画化についての相談にお伺いしたのは2015年の年末ぐらいでしたかね。そうしたら講談社の担当の方から「ちょうどテレビアニメの話もきてますよ」と。

松尾 だったら同じフジテレビだし、足並みを揃えて一緒に盛り上げていこうと、テレビアニメ化と実写映画化を同時発表したという経緯です。

梶本 原作の面白さは今さらいうまでもないのですが、先程も言ったように『いぬやしき』は実写映画にするには非常にハードルが高い作品です。もちろん、ハリウッドの大作映画のように「予算に糸目はつけない!」ということであれば話は別ですが、現在の邦画ではこれはできないだろうと。
ところが、ちょうどその頃、佐藤信介監督と映画を一緒に作れるかもしれないという話が舞い込んできて「ちょっと待てよ」となりまして。佐藤監督ならそのハードルを超えられるんじゃないか、と。それで思い切って『いぬやしき』映画化を提案したところ、ご快諾いただけました。
佐藤監督には自分たちが使えるすべての技術を結集することで邦画の新しいステージにチャレンジして、ハリウッド映画にも負けない作品を見せるという意気込みで制作にあたっていただいています。

松尾 僕が担当している"ノイタミナ"では、いわゆるアニメーションの"売れ線"とは異なる路線の個性的な作品を作ってきました。ビジネスとして考えればわかりやすい売れ線を作っていくのもひとつの正解かもしれませんが、ノイタミナはある意味で「局を背負っている」ぐらいの気持ちでやっているので、どこか他と同じようなものをやったらダメだろうと思っているんですよ。視聴者の皆さんが「この枠、毎回違うテイストのアニメをやっているよね」と感じるぐらいの変化をしていかなくてはいけないと考えていて。
いろんな球をきわどいところへ放っていくことが僕たちの役割なんです。そういう点でいうと、そもそも『いぬやしき』も基本的にアニメに向いている作品ではありません。でも、だからこそ僕たちがやる意味があるし、挑戦し甲斐があると感じたんです。


原作ファンの期待感を上回る
リアルでハイクオリティな映像

梶本 アニメ化にあたってとくに意識していることはどんなことなのでしょう。

松尾 〝生〟っぽさを出したいということです。テレビアニメは"二次元"のクリエイションですから、人間や世界を描くときに"記号化"してしまうことはどうしても避けられませんが、それをいかにして視聴者に感じさせないか。
目の前で展開する物語が自分たちが生きているリアルな世界と地続きであり、テレビアニメを見ていることを忘れさせるような質感、演出をいかに見せていくかというのが勝負かなと思っています。今回はまさにそれを実現するための布陣を組んでいて、監督をはじめとする制作スタッフ、キャストも含め、僕は本当に日本でももっとも力があるとんがったチームになったと自負しています。

梶本 アニメスタジオはMAPPAですね。

松尾 作風は違いますが『この世界の片隅に』や『ユーリ!!! on ICE』といった作品で日本中を席巻した話題作を制作したスタジオです。監督は本作が初挑戦となるのですが、3DCGの監督として『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』を担当した籔田修平さん。3DCGでダイナミックなアクションを見せることに関してはまさしく日本のトップランナーです。
そして、総監督として『TIGER & BUNNY』のさとうけいいちさんを起用し、いかに視聴者を湧かせていくかピンポイントでディレクションしてもらっています。このふたりの化学反応が実にうまくハマっている仕上がりになっているので、ぜひ期待してほしいところです。

梶本 実写映画でもリアリティの追求を重視していて、佐藤監督は〝スーパーリアリズム〟という言葉で表現されています。実写でやるからには、とにかくマンガっぽく、アニメっぽくならないようにする。フルCGシーンも数多くあるのですが、そこでも徹底してリアルな質感にこだわっています。
さらに注目のポイントを挙げると、今回は犬屋敷役の木梨憲武さんの全身をスキャニングし、邦画では初となる〝デジタルヒューマン〟技術を使って、まさに驚愕の映像表現を実現していることです。この技術によってCGで完全に木梨さんをそのまま完全に再現して自由に動かすことができるようになっているのですが、制作中の映像を見ただけでも「これは本当にCGなの!?」という衝撃があったので、ぜひ期待してほしいですね。
それと映像表現の自由度ではどうしてもアニメーションに及びませんが、生身の人間が見せる俳優の演技も実写版ならではの見どころです。今回は木梨さんがコメディアン的な要素を抑えて、冴えない中年男の悲哀を感じさせるものすごくいい演技をされていますし、獅子神役の佐藤健さんも誰もがご存知のように演技力は抜群で、今回は悪役に初挑戦。
ご自身も「演じていてすごく楽しい」と仰っていましたが、獅子神役がばっちりハマっていて、思わず怖くなってくるような演技を見せています。

松尾 アニメのキャスティングも今回は犬屋敷役に小日向文世さん、獅子神役に村上虹郎さん、そして実写映画版と同じく安堂直行役を演じられる本郷奏多さんと、メインキャストには実力のある俳優を起用しています。
キャスティングはプロモーションの観点からプロデューサーハンドリングになることが多いのですが、今回は現場からリアルな"生"っぽさを出すためにも俳優さんを使いたいという声が出てきたんです。

梶本 犬屋敷と獅子神それぞれに不安や葛藤があって、その心情の揺れ動きのドラマも『いぬやしき』の大きな見せ場ですからね。

松尾 そうですね。原作でインパクトの強かったアクションシーンや飛行シーン、メカ描写の映像化には期待されているファンが多いでしょうし、そこはアニメならではの強みをしっかり活かしていきたいと思っていますが、それを前提としたうえで、やっぱり『いぬやしき』の一番の魅力は、犬屋敷壱郎という男が見せてくれる〝真のヒーロー像〟だと思うんです。
原作の『いぬやしき』を海外展開する際、そのまま英語にしてもよくわからないから『Last Hero Inuyashiki』というタイトルにしているという話を講談社さんから聞いたときに「これだな」と感じました。マンガの『いぬやしき』はマンガならではの残虐なシーンも話題になりましたが、奥先生が本当に描きたかったのは、そんな目を覆いたくなるような邪悪なものに果敢に立ち向かうヒーローと、そのかっこよさだと思うんですよ。
見た目も冴えなくて、社会の中で弱い立場に置かれていた男が、圧倒的な力を手にしたときに、それを人びとを救うために命をかけて使う――本当にかっこいいですよね。
アニメ化にあたっても犬屋敷をヒーローとして輝かせることがもっとも大事なポイントだと考えていますし、タイトルロゴはそういう思いを込めて『INUYASHIKI LAST HERO』としています。

梶本 これは実写映画、テレビアニメ両方にいえることだと思いますが、あれだけすごい原作を映像化するわけですから、当然その期待感も高い。映像版ならではのオリジナリティより、その期待をどれだけ上回れるかが勝負ですよね。
実際、人間の頭がパカっと割れて体が分解して、そこからものすごい武器がバラバラ出てくる画なんて、「本当に実写にできるの? 無理でしょ」と誰もが思って当然なんですよ。それを「うわ、本当にやってる」と驚かせたい。

松尾 僕を含めてアニメ制作スタッフ一同、本当に原作が大好きなので、アニメも実写映画と同様にその面白さや魅力をどれだけプラスできるかということに主眼を置いています。マンガのコマ割りの間の動き、別の角度から見たときには何が起きているのか、それを描けるのは映像ならではですよね。
いかに原作ファンを含めた視聴者の皆さんを興奮させて気持ちよく感じさせる映像を作ることができるか、そこにこだわっています。

梶本 ただ、オリジナリティという点でいうと、実は原作者の奥先生から「原作と変えてほしい」とリクエストされたところもあるんです。それで逆にハードルが高くなってしまったのですが(笑)、実写映画は原作と異なる展開があるんですよ。

松尾 映画は尺の問題もありますからね。ノイタミナ枠は1話の実尺が約20分で、『いぬやしき』は非常にスピード感のある作品なので1クールやるとちょうど原作全10巻分が入る計算なんです。
ですから、テレビアニメでは原作で描かれた物語をしっかり再現していくつもりです。奥先生からは「オープニングとエンディングの映像を楽しみにしています」と言われましたね(笑)

梶本 ああ、それもかなりプレッシャーですね(笑)

松尾 でも、すでにご覧になった人にはわかっていただけると思うのですが、非常にパンチの効いたものすごい映像に仕上がっているので、きっと奥先生にも満足していただけるかと。僕自身、もちろんプロデューサーとして期待はしていたのですが、想像していたものを遥かにぶっちぎられるクオリティの映像になっていて、正直驚きました。視聴者の皆さんの反応も楽しみです。

相乗効果でさらに熱く盛り上がっていく
『いぬやしき』プロジェクト

梶本 今回の本郷さんのように実写映画とテレビアニメで同じ役を同じ俳優さんが演じるというのもこれまでにない画期的な試みですよね。

松尾 テレビアニメの制作工程の話をするとキャスティングの決定って、だいたい後ろのほうなんです。テレビアニメのキャスティングを検討するときには、本郷さんが実写映画に安堂役で出演されることはすでに決まっていました。本郷さんは『GANTZ』にも出演されていて奥浩哉先生の大ファンなんですよね。
『いぬやしき』テレビアニメ版にも興味を持たれているという話を聞いて、「それならば!」と思いついたんです。本郷さんが声優としても一流であることは知っていましたから、テレビアニメで同じキャラクターを演じてほしいと正式にご依頼して、この実写映画とテレビアニメを同じ役者が同一の役で横断するというこれまでにない試みを実現できました。
それぞれで本郷さんがどんな演技をするのか、ぜひ両方とも見て比較して楽しんでもらいたいですね。本郷さんには実写映画とテレビアニメの架け橋としてプロモーションを含めて本当に活躍していただいています。

梶本 劇中でも安堂は獅子神と犬屋敷の間をつなぐ役どころですからね。

松尾 本当にキーマンなんです。作中でもその外でも(笑)。本郷さん自身、こういう形で実写映画、テレビアニメ両方に出演できたことをすごく喜んでいらっしゃいました。テレビアニメと実写映画は同時進行のひとつのプロジェクトなので重要な役回りですよ。実写映画はテレビアニメ放送後の来年公開予定なのでアニメを楽しんでもらった人たちが実写映画にも興味を持ってもらえるようにいいパスを出したいです。
もちろん、同時に現場としてはただの引き立て役になるつもりもなくて、「負けねえぞ」という気持ちもあって(笑)。とにかく、こういうプロジェクト自体がこれまでなかったものですから、制作スタッフ一同、いいライバル意識を持ちつつワクワクしながら作っている状況です。

梶本 こちらもテレビアニメが間違いなくすごい映像を出してくることはもうわかっているので、「負けられない」というプレッシャーで戦々恐々としていますよ(笑)。アニメを見て「すごいもの見た!」と楽しんだファンが「さて、実写映画はどんなもんだろう」と見に来るわけじゃないですか。そこでガッカリさせるわけにはいかないですからね。
そこは監督以下スタッフ一同、絶対に想像以上のものを見せてやると気合が入っているところです。そういう意味でテレビアニメには本当にいい刺激をもらっています。

松尾 互いにいい影響を与え合って、相乗効果で『いぬやしき』プロジェクトをさらに盛り上げていきたいですね。