『舟を編む × 辞書出版社11社タイアップ』第一回「広辞苑 第六版」プレゼント企画に寄せ、岩波書店 辞書編集部より寄稿を頂きました
《辞書は世につれ》【舟を編む】『広辞苑』
実は『広辞苑』には『辞苑』という"先代"がいました。
『広辞苑』の編者新村出〔しんむらいずる〕先生が編纂し、1935年に博文館から刊行しました。
戦後『辞苑』を全面的に改訂・増補、七年余を費やした編集作業で面目を一新し『広辞苑』と名付けられたこの辞書は、
1955年5月25日に初版(第一版)を刊行、昨年無事"還暦"を迎えることができました。
辞書の役割に、言葉の規範を示すということがあります。同時に、言葉の変化を記述するという役割もあります。
『広辞苑』にも載っている慣用句「歌は世につれ世は歌につれ」を借りれば、「辞書は世につれ」ということかと思います。
『広辞苑』はどちらかというと、世の中の動きにゆっくりついていく辞書ですが、60年余りの歴史をたどると、やはり世間の移り変わりが見えてきます。
初版(第一版)の項目数は約20万項目。改訂のたびにほぼ1万項目ずつ増えています。各版のおもな新加項目を見てみると...
第二版(1969年5月16日)
第二版補訂版(1976年12月1日)
愛車 重きをなす 面〔おもて〕を曝〔さら〕す 下舵〔さげかじ〕 スモッグ 寸借 中間色 電波天文学
ナレーター 必見 標準化石 マナー ユースホステル レスラー
第三版(1983年12月6日)
熟年 宅配 嫌煙権 五月病 自然食 ダイエット 省エネ カラオケ ジョギング ムック
パソコン ワープロ サミット 環境アセスメント 生涯教育 スペースシャトル 液晶
第四版(1991年11月15日)
森林浴 いまいち 単身赴任 秘湯 過労死 回転寿司 コンセプト レシピ DCブランド
フレックスタイム制 財テク 中性紙 ICカード 電子手帳 酸性雨 フリーター 飲茶〔ヤムチャ〕
第五版(1998年11月11日)
朝一 一押〔いちお〕し 裏技 茶髪〔ちゃぱつ〕 ストーカー 携帯電話 テーマパーク
シエスタ ボーダーレス フリーズドライ 環境税 介護保険 生活排水 HIV インターネット ホームページ GPS
第六版(2008年1月11日)
食育 代引き 引籠り 風評被害 猛暑日 らしくない いけ面 スイーツ 着メロ
パティシエ マイブーム リベンジ 九‐一一事件 裁判員制度 自爆テロ 准教授 ハザードマップ 道の駅
エコノミークラス症候群 海洋深層水 性同一性障害 六甲颪 青色発光ダイオード カミオカンデ 準惑星
メタン‐ハイドレート ウルトラマン おしん 紅白歌合戦
(第六版では、特に昭和40年代までの事柄をとりあげた"昭和枠"を設けました)
新加する項目だけではありません。改訂のたびに全項目について検討し必要な手直しをしています。
たとえば、初版で「スパゲッチ 細くて穴のないマカロニ。」だったものが、第二版では「スパゲッティ」となり、
第五版では、「代表的なパスタ」となっています。
ちなみに「パスタ」は初版から収録されていますが、ドイツ語からの外来語としてで、「イタリア料理に使う麵類の総称。」
という意味が加わるのは第三版からです。
また、初版では「サッカー」は参照項目で、本項目(語釈のついている項目)は「ア式蹴球」でした!
こうしてみると、60年といえども世の中はかなり変化しているといえるかもしれません。