『舟を編む × 辞書出版社11社タイアップ』第三回「新字源 改訂版」プレゼント企画に寄せ、KADOKAWA辞書編集部より寄稿を頂きました

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漢和辞典と『角川新字源』

辞典はふしぎな本です。マンガや小説のように物語が書かれているわけでもなく、
何かの事実をもとにしたドキュメンタリーでもなく、最先端の学術的な発見を説明しくれるわけでもありません。

ただ一定の順序にしたがってたくさんの言葉が並び、いろいろな視点でその意味が記されていて、
私たちはある言葉や、その言葉が使われている文章の意味を調べるために辞典を使います。
つまり、本を読むための本が辞典なのです。

世の中にはたくさんの言葉があって、その数だけ辞典の種類があります。
国語(日本語)の辞典、英語の辞典、中国語の辞典などのうち、漢字について知るための辞典が「漢和辞典」です。
漢字辞典といわれることもありますが、古くから漢和辞典という名前が使われてきました。

そうした漢字についての辞典(ちなみに、文字についてのジテンを「字典」ともいいます)のうち、もっとも古いものは、
中国で一世紀頃に作られ、約一万字を収めた『説文解字』といわれています。
昔の中国人は辞典作りの達人だったため、その後は漢字の意味だけでなく発音や熟語だけを集めたものなど、
とてもたくさん辞典が作られ、十八世紀には今使われている漢字のほとんどを網羅し、
約五万字を収めた『康煕字典』が完成しました。

日本では長いあいだ中国で作られた辞典を使っていましたが、
九世紀頃から中国の言葉=漢語を日本語でしらべるための独自の辞典が作られるようになり、
やがて明治時代以後、その多くは『康熙字典』をお手本にして、
今私たちが使っているような漢和辞典が作られるようになりました。
そのあたりが今の漢和辞典の直接のご先祖さまと言えるかもしれません。

ある言葉の辞書があるということは、その言葉を知ることがとても重要ということでもあります。
自分たちが使う日本語を知るために国語辞典が作られ、英語の学習が重要な現代ではたくさんの英和辞典が作られています。
それと同じように、近代以前の日本人にとっては、中国で作られ、漢字だけで書かれた儒教や仏教の経典を読むことが
とても重要な学問でした。

つまり、英語を日本語(和語)で説明したものが「英和辞典」であるなら、
漢文に書かれた漢語を日本語で説明したものが「漢和辞典」だったのです。
そして現代では、日本語の中の漢字の意味を調べるのに使われるようになりました。

1967年に刊行された『角川新字源』は、日本語の中で使われる漢字や、その熟語の意味をより深く知るために、
まずそれが中国の古典でどのように使われていたのかを知ることが重要だと考えて編集された辞典です。
そのため、すこし難しい言葉もたくさん載っていますが、
漢字のこと、ひいては日本語のことをもっとよく知るためには、とっても役に立つはずです。
ぜひ使ってみてください。