『舟を編む × 辞書出版社11社タイアップ』第十回「旺文社国語辞典 」プレゼント企画に寄せ、旺文社様より寄稿を頂きました

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タイトル:「旺文社国語辞典」 編集エピソード

日頃の編集作業の中で、読者からの問い合わせや原稿のやり取りについて、特に印象に残っているエピソードをいくつかご紹介いたします。

◎問い合わせ

・教えてクロスワード・パズル

辞典の内容に関する問い合わせと見せかけて、懸賞に応募するためのクイズの解答を聞いてくる人も多くいます。
例えば、「5字のことばで人の名前なんだけどさ、最初が『な』、4字目が『お』って何だろうね?」といったもの。
原則として商品の中身に関係のない質問はご遠慮いただいているのですが、電話を受けるとつい一緒に考えてしまって、「あ、それはナポレオンですよ!」などと答えて嬉しそうにしている人をよく見かけます。

・「あかぎれ」をどう書くか?

ある編集者によれば、これまでに受けた問い合わせのうち、もっとも多いのがこれ。
「『あかぎれ』は『皸』と書くが、ある本に『皹』と出ていたのは間違いではないか」といった内容です。
それぞれ偏と旁(つくり)があべこべになっていますが、本当はどちらが正しいのでしょうか。
正解は、「どちらも正しい」です。辞書には両方の字が載っていて、一方が別体とされています。
この編集者は、新人時代にこの問い合わせを受けるまで「皸」も「皹」ももちろん知らず、調べてみてびっくりしたそうです。
さらに、同様の問い合わせをその後何度も受け、世間の多くの人が、このような難しい字に興味を持っていることにも驚かされたと語っています。

・時にはお礼の品をいただくことも

編集部には、老若男女さまざまな方からことばに関するお問い合わせをいただきますが、編集者はそのつど丁寧にお答えするよう心がけています。
新しいことを知った高揚感からか、もしくは長年の疑問が解消された嬉しさからか、ご質問にお答えしたことに感激してくださる読者の方もいて、そのお礼に贈り物をいただくこともあります。
あるときは、震災から復興してはじめて採れた三陸わかめが送られてきました。さすがにびっくりしましたが、お心遣いへの感謝と三陸復興への喜びを感じつつ編集部で分け合いまいた。
しかし、どうかみなさま、このようなお心遣いのないようにお願いします。

・インド人と文通

過去には、「小学国語新辞典」で日本語を学ぶインド人大学生がはるばるインドから問い合わせをしてきたこともありました。
インターネットが未発達でメールの普及していなかった時代、担当者は文通のように何度もエアメールで返信の手紙を送りました。

相手の学生は、ひらがな・カタカナで文章が書ける、かなりの語学力の持ち主で、非常に勉強熱心でした。
M・Fさんという名前からは性別がわかりませんでしたが、入社間もなかった女性担当者は、熱意に応えようと懇切丁寧な返事を書き続けたところ、そのインド人から「今度日本に行くので六本木でデートしてください」という手紙を受け取りびっくり仰天(上司に相談し、結局お断りしました)。

ふだん、国語辞典の編集者が外国人と直接接する機会はほとんどありません。後から考えると、この出来事はささやかな国際交流の一端だったようにも思います。
担当編集者は当時を振り返り、わかりやすく正確な回答を心がけることは日頃の辞書づくりに役立ち、たいへん勉強になったと述べています。また、初心に立ち返る時にいつも思い出す、印象深いエピソードでもあるそうです。

◎原稿の見直し

・地道な作業

辞書に載っている一つ一つの語の意味は、各ジャンルの専門家に執筆していただきます。
意外に思われるかもしれませんが、それらの原稿はかなり個性的です。
どれも書き手の人柄を反映していて、解説が非常に細かいもの、簡潔なもの、また、文章が硬いもの、くだけたものなど本当にさまざまです。

編集者は、ばらばらの原稿を、一冊の辞書としてまとまりのある、統一のとれたものになるように、記述内容の校訂を進めます。
表記を合わせ、執筆者と相談しながら適切な内容、適切な文字数に整えていくのです。
たくさんの種類のフルーツを、一つの箱にきれいに箱詰めするイメージでしょうか。
地道な作業ですが、この積み重ねが最終的に辞典の個性を決定づけるので、一語一語誠実に向き合うことを心がけています。


(じしょたんず海くんが、プレゼント本を頂きに行ったときの様子)

ヽ(・ん・)ノ

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